「はーい、これでいいですよ。あんまり今日は動かないで下さいね、それから奥さんの風邪は大丈夫ですか?
一緒に薬出しときますから、もらってって下さいね」
かつてミスティ達のいたダウンタウンに自らの医院を開業した物好きな医者はにこやかに微笑むと、
出ていく患者に「おだいじに」と言った。
ひとしきり午前中の患者は全部見終わったようなので休みを取ろうと、ふうと一息つく。
すると奥の扉から青年が顔を出した。
「大丈夫? 午前中の患者は終わり?」
「うん、今終わった。昼ご飯食べる?」
「えーっとさ、ヒイロ、何だか怪しいオヤジが訪ねてきてるんだけど」
「オヤジ? 何それ」
ヒイロがそう言うと、どん、と扉の所にいた青年を押し出して、背の高い男が顔を出した。
「オヤジはねえだろ、オヤジは。まだまだオヤジって言うほどの歳じゃないし」
「クリス!!」
ヒイロは驚いて立ち上がった。
「久々に帰ってみようかなとか思ってさ。ロジャーに聞いたよ、来週から日本に行くんだって?」
「え、ああ。久しぶりに帰ってみようかなと思って。ほら、ロジャーも日本行ったことないし」
「俺もついてくから、よろしくな」
「な、何で……」
急にそんなことを言い出す旧友にヒイロは絶句するばかりだった。
「どう、それでロジャーは大学ではうまくやってんの?」
「大学じゃない。大学院だよ」
「そうそう、それ」
コーヒーを飲みながらクリスは聞いた。
「えーっと、うまくやるって、どういうこと?」
「そうだよ。過去にウイルスの特効薬を作って学会に認めさせたくらいの頭の持ち主が何をいまさら失敗するっていうんだよ」
続けてヒイロは馬鹿だなあ、と言った。
「まあ、そうだけどね。じゃあ、お前の方はどうなの、商売の方は」
「ぼちぼちだよ。この辺あんまり医者ないしね。でも診察料やすくしてるからそんなに儲からないんだよ」
そう言ってヒイロがため息をつく。
「そんなぼちぼちの医者が、こんな頭のいい大学院生を居候させてるなんてわけわかんないねえ。
いっそのことロジャーも医者になっちまえば?」
「僕は人と接するのが苦手だから」
ロジャーがそう言うと、
「ロジャーが医者になんかなったら、俺のいる意味がないよ……」
ヒイロはそう言って苦笑した。
「で、そういうクリスは何してるの?」
「まあ、前と同じ。アメリカ中まわったけどね、まだまだ広いよ」
「ふうん。なんかお土産ないの」
「ねえよ」
クリスが言うとロジャーはけち、と呟いた。
「それでまた、日本はどうして行くことに?」
クリスが聞くと、ヒイロは一瞬黙った。
「……本当はすぐに行こうと思ってたんだけど……。
……あの時、全部終わったらみんなで日本に行こうって言ってたから……それにこだわってたのかな……」
ヒイロが言うと、他の二人も黙った。
「でも、やっぱり行こうと思って。長い間家族とも会ってないし。
クリスが来たのは偶然だったけど、せっかく三人そろったんだしさ。」
それからしばらく三人は黙っていたが、やがて日本について喋りだした。
「あのさ、日本てサムライがいるの?」
「いないよ。そんなのずっと昔の話だよ」
「俺知ってるぞ。日本人は俺達のこと『ガイジン』て言うんだ」
「だから何なんだよ!」
くだらない話はヒイロの昼休みが終わるまで続いた。
「じゃ、そういうわけで来週日本に行くってことで」
クリスがそう話をしめると、ヒイロが笑った。
こうして三人が揃うのはあのKが消滅した年以来、8年ぶりであった。
End.
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