第四章

「車を止めろ」

 アレックスの言葉に、クリスは車を止めた。同時に後ろからついてきている二台の車も止まる。

「どうする気だ?」

 クリスが聞いても、アレックスは身じろぎすらしない。

 やがて後ろの車のドアが開く音が聞こえた。ミスティが振り返ると、車から出た男が銃を構えている。

「ねえ、ほんとに」

 アレックスは視線すらも動かそうとしない。

 後ろの車の拡声器から声が聞こえてきた。

「ミスティ・レイモンド、クリス・フォード、今更何をしても無駄だ。お前達は今度こそ逃げることは出来ない。おとなしく車から出てくれば、命だけは保証しよう。……それと、アレックスもな」

「ギルバートの奴……」

 アレックスから声が漏れた。

「アレックスがいるのがばれてる? 一体どういうことだ」

「それに命だけは保証って、どういうこと?」

 クリスとミスティが立て続けに質問する。

 アレックスはうっすらと額に汗を浮かべていた。

「……メーソンの上層部はわかっていやがったんだ。俺が偽物だってことも、この件について嗅ぎまわっていることも……」

「じゃあ……」

 ミスティが後ろを振り返る。

「もう何の手の打ちようもない」

 アレックスはそう言い切ると、ドアに手をかけた。

「待てよ。奴等の言うことを信用できるのか?」

 今まで寝ていたはずのカークがアレックスの肩に手をかけた。

 一瞬、沈黙が流れる。

「俺が行く」

 カークは有無を言わさずアレックスを押しのけると、ドアの外に出た。

 その瞬間。

 雷鳴のような銃声が重なり、車の窓はトマトジュースをぶちまけたような赤い液体で外が見えなくなった。

「……!」

 ミスティは声も上げずに手で顔を覆った。クリスが目をつぶる。

 そうして、銃声は止んだ。

 静まり返った車内でミスティは顔を上げると、突然カークの名前を叫びながら外に飛び出した。同時にアレックスとクリスが銃を持って飛び出す。

 ミスティは血まみれになったカークの体を起こして揺すったが反応はなかった。それでも何かを叫びながらミスティはカークを揺すり続ける。

 ミスティの悲鳴を聞きながらクリスはカークの時のように向こうの銃が動く、という気配がないのに気がついた。

 ふとアレックスに目をやると、アレックスの銃がある一点を向いているのに気がついた。

「全員、銃をこっちに投げろ」

 アレックスが向こうの車の全員に言った。しかし向こうは動く気配すらない。

「わかっているだろう。この銃は寸分のずれもなくスミス大佐を狙っている。こっちが風上だからお前らの銃が火を噴く前にスミス大佐はあの世行きってことだ。わかったらさっさと銃をこっちに投げろ」

 一人ずつ、銃を投げる音がした。クリスは肩で息をした。この混乱の中で冷静な判断の出来る天才がいて本当によかったと感謝していた。

 アレックスはそれでも銃を動かそうとはしなかった。これからどうするかを模索しているのだろう。両者の間には緊張した空気が張りつめていた。

「誰か……誰かいるんですかぁっ」

 突然雨の音の隙間から誰かの声がした。

 パシャパシャと水の跳ねる音が聞こえて、子供が木の間からこちらに向かってくるのがわかる。

 一瞬だが、全員の神経がそちらへ向いた。その瞬間、大きな音がしてアレックスの銃が煙を上げていた。予想外の出来事にアレックス自身も一瞬何が起こったかわからなかった。

「大佐!」

 叫ぶ隊員より早くアレックスがギルバートの元に駆け寄る。クリスもそれに続いた。

 アレックスの銃から飛び出した弾は確実にギルバートの心臓を貫いていて助かる見込みはゼロだった。

「貴様ぁ!」

 駆け寄ったアレックスに銃を拾った隊員が銃口を突きつける。アレックスは抵抗しなかった。

 弱々しくギルバートの手が上がった。そしてその手が車の後方を指さす。

 隊員達がその方向をみると、さっきの声の主の子供が泥まみれになって突っ立っていた。

「あのっ! た、助けて下さい……あっちで土砂崩れがあって、たくさんの人が生き埋めになって……」

 土砂崩れの恐怖に加え、倒れている血まみれの人間と、大きな銃を見て脅えたのか、子供の声は大きく震えていた。

 子供の言葉に応えずに隊員はギルバートを見つめた。指示を仰ごうとしているのだろう。

「あの子の言うとおりに行ってやれ。それが私の最後の命令だ」

「しかし! 任務はこいつらを始末することでは?」

 隊員の一人がギルバートに尋ねた。

 ギルバートは大きく息を吐くと、アレックス達を見た。

「お前達の連れを殺してしまったのはすまなかった」

「……」

 信じられない言葉を聞いてアレックスとクリスは目を見開いた。

「アレックス、私は一度お前を殺している……お前に殺されることは何とも思わんよ。今の今になってだが……己の心に忠実に生きられなかったことが多少心残りなのかもしれん。しかしそれも私の生き方だ。後悔はしていない。するとすれば……あの子供の言葉を無視して何人かの人間を見殺しにすることだ」

 そう言って今度はギルバートは隊員の方を見た。

「行って、助けてやるんだ。お前達に責任は取らせられんよ。この件の責任者は私だ。そしてその私の最後の命令を聞いてくれないか」

 隊員達は頷くと、銃を捨てて子供の案内する方へと消えていった。

 それを見届けるとギルバートは、目を閉じて最後にこう告げた。

「明日、取り返しのつかないことが起こる。お前達はせいぜい出来る限りあがいてみるがいい。……前と同じようにな」

 言い終わると、ギルバートは意識を深い底に沈めたようだった。

 アレックスはギルバートの脈を取ると、少しだけ下を向いて、それから立ち上がった。

 振り返ると地面に座り込んでミスティがぼうっと前方を見つめていた。

「ミスティ」

 クリスが声をかけたが返事がなかった。

 アレックスは首を振るとクリスに車に戻るように促した。

「どこかでひと休みした方がいい。俺も……何だか大分疲れた」

 

 

 

 人の気配がしてヒイロは目を覚ました。

 外でがやがやと人の声が聞こえる。泣いているような声も聞こえた。

 何故か部屋の床の上で倒れていたヒイロは、自分の体の異変にも気が付いていたが、それよりも外が気になって気が付くと飛び出していた。

「ど、どうかしたんですか!?」

 ヒイロは眼前に広がる光景に驚きの声を上げた。

「土砂をどかしていたときにね、土砂崩れがまた起きたんだよ。それで何人も下敷きになって……」

 ヒイロの近くにいた中年の女性が答えた。

「だ、大丈夫なんですか、それ!?」

「今、軍の方が助けてくれて、ほぼ全員救出されたのさ」

「軍……」

 ふと嫌なことがよぎり、ヒイロは思考を中断したが、すぐにまた次の質問をしていた。

「あの、けが人とかは!? 大丈夫なんですか? あの、何か僕に出来ることがあったら……」

 ヒイロがそう言うと、中年の女性はにこりと笑って「それじゃお願いしようか」と言ってけが人が集まっている、集会所にヒイロを連れていった。

 

 

「ミスティ」

 いくらクリスとアレックスが声をかけてもミスティはカークの手を握ったままだった。

 今度はアレックスが運転して、近くにある村を探している。

「ミスティ、しっかりしろよ」

「……」

 ミスティはうつろな目で前方を見つめるだけだった。

 やがて。

 しばらく車が山を登ると、村の灯が見えてきた。

「やっぱりこっちで合ってた。さて、ここでひと休みさせてもらうか。ミスティも大変なことになってるしな」

 アレックスが後部座席を振り返ると相変わらずミスティはうつろな目で前を見ていた。

 車を止めて外に降りると、アレックスはやけに集会所の方がにぎやかなことに気が付いた。

「俺、ここに一晩泊めてもらえるか聞いてくる。ミスティをよろしく」

 そう言うと、クリスは集会所の方に足を運んだ。

 中に入ると、けが人がたくさんいて、クリスは土砂崩れに巻き込まれたのはここの村の人だったのかと思った。そして誰に声をかけようか迷っているうちに、知っている顔がその中にいるのに気が付いた。

「ヒイロ!」

 名前を呼ぶと、すぐにヒイロは反応した。

「あ、クリス!」

 クリスはけが人をかき分けてヒイロの近くに行った。ヒイロはけが人の手当を手伝っているところだった。

「何でお前がここにいるんだよ?」

「どうして俺がここにいることがわかったの? ミスティもカークも?」

 最後の一人の名前がひっかかって、クリスは次の言葉を繰り出すのが遅れた。

「ここに来たのは偶然で。ミスティもアレックスも来ている。……けど、カークは……」

「……カークは?」

 きょとんとした顔でヒイロがクリスを見る。

「カークは、死んだ」

「……」

 ぽとん、と手にしていた消毒液付きの脱脂綿を落として、ヒイロはしばらくそのままの姿勢になった。

「さっき、山の下の方で軍におそわれて。カークだけが犠牲になった」

「……嘘。嘘だろ!?」

「同じように俺達がダグラスの家にいたとき、軍におそわれて、ダグラスが犠牲になった」

「ま、待ってよ! え? 死んだ?……嘘みたい」

 最後の方は小さな声になってヒイロは下を向いてしまった。それから周りの人に「ごめんなさい」と言ってクリスと一緒に集会所の外に出ていった。

 まだ雨の降っている外に出ると、ヒイロは複雑な顔をして、「ミスティとアレックスは無事なんだよね」と聞いた。

「アレックスは平気だが、ミスティが……」

 先を言いかねて、クリスはそのままヒイロを車に案内した。

 突然のヒイロの出現にアレックスが車から出て、驚く。

「ヒイロ! お前、連れて行かれたんじゃなかったのか?」

「うん……まあ……それより……ミスティは?」

 アレックスがあごで車内を指すと、ヒイロは中を覗いて、ミスティに声をかけた。もちろんミスティは反応しない。

「あれ、カークでしょ。ひどいね……」

 誰にともなくヒイロはそう言ってため息をついた。

 しばらくそのまま時間が流れる。

「カークを、埋めてあげた方がいいと思う」

 ヒイロは突然そう言うと、村の人に言ってくると言って集会所の方に再び向かった。

「葬式なんてしてやれる暇はないからな」

 ぼそっとアレックスが言う。クリスは、カークの手をつかんでいるミスティの手を離した。意外にミスティの手はすんなりとカークから離れた。

 

 

 そうして、村の人の力も借りてカークの遺体は山の中に葬られることになった。

 村の人はくわしい事情を聞こうとはしなかったし、誰も話そうとはしなかった。

 まだ弱く雨が降り続く中で、ミスティはカークを埋葬する人々の背を傘もささずに見つめているだけだった。

 一通り作業を終えてヒイロがミスティに声をかけると、ミスティはふらふらと墓石のそばまで行き、そこで座り込んだ。

「カークまで……あたしは、あたしは何にもできなかった……」

 雨に濡れているのでわからなかったが、ミスティは泣いているようだった。

 ヒイロはそのとなりに座り、言おうか言うまいか迷って、それからこう言った。

「多分ミスティが悪いわけじゃないと思う……そりゃあカークが死んでしまったのは哀しいけど。だけど自分を責めても、何にも返ってこないよ。カークだってそんなことして喜ぶはずないし。だからさ、その次を考えようよ。ロジャーのことは、絶対助けようよ」

 ミスティは答えなかった。

「Kウイルスはもう完成してるんだ。ロジャーは一人がんばって何とかしてウイルスに対抗する薬を作ろうとしている。だから、なんていうか、ここでミスティが落ちこんじゃって何にもできなくなったら、ロジャーに申し訳ないっていうか何ていうか……とにかく! ねえ元気出そうよ」

 ぽんぽんとヒイロがミスティの肩を叩く。

 それだけでミスティは何だか心が軽くなった気がした。

 昔ロジャーと二人でダウンタウンにいたとき、様々なことにぶつかって落ち込んでいた自分を慰めてくれたロジャーの事を思いだしていた。

「……ありがとう」

 涙を止めるように、くっと喉をならして、ミスティはヒイロに笑顔を向けて見せた。

 ヒイロもそれにつられて笑って、風邪をひくから早く家に入ろうと言った。

 

 

 

 ヒイロ達は全員で、最初にヒイロがお世話になった家に泊まり込んでいた。ミスティ以外は全員床で雑魚寝で、翌日一番はじめに起きたのがヒイロだった。

 ヒイロは一人で勝手に人のうちのコーヒーメーカーでコーヒーをいれて朝のニュース番組を見ていた。

 後ろから人の気配がしたので振り返るとクリスが立っていた。

「……あ。おはよう」

「……」

 クリスは黙ってヒイロのとなりの椅子に座った。

「……お前」

「?」

「本当に大丈夫なのか」

 クリスはヒイロを覗き込むようにして言った。

 ヒイロは顔をそらしてコーヒーを一口のんで、「何が?」ととぼけてみせた。

「何が、じゃないだろ。ウイルスだよ。もう健康体なはずないだろ」

「まあ、そうだけど」

「そうだけどって、お前なあ」

 クリスはため息をつくと肩につくブロンドの髪を手でくしゃくしゃにした。

「……こないだのダグラスの事といい、カークの事といい、俺も色々心配なんだ。これ以上誰か死んだりしたら、俺自身がどうにかなっちまうんじゃないかってね。だからミスティはすごい辛いんだと思うよ。あんなに、仲間を失って」

「……」

「アレックスは、この件に首つっこんだ時点でこんなに人がぼろぼろ死ぬっていうのは目に見えてたって言うけど、実際身近な人間がこうなるとさ、納得がいかないだろ?」

「……」

 クリスはまた大きくため息をついて頭を抱えた。

「正直なことを言うと、俺はすごい心配なんだ。今ここに残った俺達の中でまた誰かが死んじまうんじゃないかって。アレックスとか……ミスティだって……。だから、死なないって言ってくれよ。頼むから」

 クリスの声は泣きそうだった。

 ヒイロはマグカップを置いて、ぽつんと言った。

「……死なないよ。誰も。ロジャーも助かって、全部上手くいって、みんなで一緒に日本に行くんだよ。兄貴にもこの話聞かせたいし、妹だってみんなに会わせたい。日本てほんとにいいところだよ。今のこの現実が夢みたいに」

 クリスは下を向いたままだった。

 ミスティの時と同じようにヒイロがぽんと肩を叩く。

「みんなでそんなに落ち込んでたら上手くいくものも行かないよ。こっちには何たってヒーローのアレックスがついてるわけだし?」

 ヒイロがそう言うと、クリスは口の端だけで笑った。

 ふと振り返るとアレックスが立っていた。

「そうそう、ヒーローがついてるわけだから。それじゃあ、夢を見ながら考えた計画を聞いてくれるかい?」

 アレックスは笑いながらそう言った。

 

 

 山に囲まれた盆地にある街に数台の黒い車が止まっていた。

 早朝、まだ住民が寝静まっている時間だ。

 そのうちの一つの車の中には現大統領もいた。

「この中にクートブも混ざって来ていらっしゃるようです」

 大統領の隣の男がそう言った。クートブとはメーソンの中で神に最も近い最高の地位の人間のことである。

「……どの車かわかるか?」

「いえ」

「拝顔する事はかなわないというわけか」

「ええ、顔がわかってしまってはなりませんから。あくまで上層部に関することの全ては極秘事項なので」

「やはりそうか」

 大統領はそこで言葉を切った。

 別の車ではケンが誰かと電話をしていた。

「では、もうよろしいですか」

「お前の好きにしなさい。それがお前のやるべき事だ」

 ケンが電話で問うと、電話の向こうから低い厚みのある声が返ってきた。

 声の主はメーソン最高の地位を持つ者である。

「それでは」

 ケンは電話を切り、また別のところにかけなおして合図を送った。

「預言通りに今サタンが解き放たれる」

 

 

 別の場所ではロジャーがきつく縛られた手足の縄をほどこうと、もがいていた。

「早く……しないと……」

 夜通しもがき続けた結果、手首と足首の皮はボロボロになり血で染まっていた。摩擦でようやく足の縄の一つが切れそうになり、手の方はかなり緩んできたようだった。

 幸いいつも研究所内の警備にあたっている人間のほとんどが今日の重大イベントのためにケンと共に外に出ているため、ロジャーを監視する人間はいないに等しかった。

 ロジャーは力任せに縄を振りほどくと、万が一のためにズボンのポケットに入れておいたクリップの形を変形させて鍵穴に差し込んだ。

 カチリという音がして鍵が開く。

ドアを開けるとロジャーは急いでいつもの部屋にむかった。

  ー10ー

 ヒイロ、ミスティ、クリス、アレックスの四人は車に乗り込んでいた。

 行き先はもちろんこの間までヒイロがいた、ロジャーのいる研究所。

 これが最後の舞台となるであろうことは全員がわかっていた。

 ヒイロが言うように全てが上手く行くか、ケンの思うとおりに全てが駄目になるかはおそらくこの日で決まるのだろう。

 アレックスは全員に作戦の最後の確認を行う前に、まずミスティに声をかけた。

「ミスティ。ホントに大丈夫か?」

 ミスティは少し間をおいてうなずいた。

「昨日はごめん。でももう平気だから」

 その言葉に安心したようにアレックスは頷いた。

「……そういえば」

 何の気無しにクリスがラジオをつけながらこう言った。

「昨日ギルバートが言ってた、『取り返しのつかないこと』って何だろうな」

 ラジオのノイズに混じり、ニュースの声が聞こえた。

 突然、しっ、とアレックスが口元に指を当てる。

「……で、今朝、新型のウイルスに感染した患者が突然病院に押しかけてくるという事件がありました。午前9時すぎごろ、体の具合が悪いと病院に押し掛けてきた患者を封切りに、その後動けなくなった患者が次々と救急車で運び込まれました。ウイルスはエイズにも酷似していますが、それに加えウイルス自身でガン細胞と似たようなものを作り出すようで、医者はこのまま行くと患者は二日と持たないということです。ウイルスの感染源は水道水のようであると発表されていますが詳しいことはわかっておりません。ウイルスは空気感染もするということで現在その街では猛威を振るっております。医学会ではこのような新種のウイルスが突然現れることはないと言っており、現在治療法もわかっておりません……」

 そこまで聞いて全員が顔を見合わせた。

「やっぱり……そういう事だよね?」

 ヒイロがおそるおそる聞く。

 アレックスは答えずにハンドルを握った。

「急ぐぞ。渡した武器は絶対に手放すな。多分今の段階では警備が手薄のはずだ。何としても奴等が戻ってくる前にウイルスを破棄し、ロジャーを助け出す。いいな?」

 アレックスの表情は固かった。

 ミスティは手にしていた銃を握りなおした。

「……上手く行くよな……」

 クリスが自分に言い聞かせるようにそう呟いた。

 車は車体を揺らしながら村を出ていった。

 

 

「そろそろ、邪魔者が動きだすかもしれないな」

 遠くで車の中から街の混乱の様子を傍観していたケンが呟いた。

 ケンは受話器を取ると、その場に連れてきていた軍に戻るように指示した。

「戻ろう。これで奴等をつぶすことさえできれば全てが俺の思うとおりだ……これで俺は自由になることができる」

 ケンは運転手にも戻るという合図を出した。

 車がゆっくり滑り出す。

 軍隊が乗っていた車以外にもう一つ窓にカーテンのついた黒い車がついてきていた。

 クートブの乗った車だった。

「私はあの子の最後を見届けなければならん」

ひどく落ちついた声で『彼』は自分自身に言い聞かせるようにそう呟いた。

 

 

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