第三章

 アレックスがダグラスの家を出ていった翌日、クリスとヒイロはダグラスと共に、アレックスの言っていたシエラという医者の経営する病院に行った。シエラの病院ではダグラスはもう顔パスで通るほどよく知られていた。

 シエラの病院はダグラスの家と同じ街にある小さな病院で、住民が風邪で通ったりする、普通の病院だった。

 クリス達はシエラの病院が終わってからやっと中に入れてもらうことができた。

 ダグラスと同年代のようであるシエラは、クリスを見ると嬉しそうな声を上げた。

「あらあ、クリスじゃないの! どうしたのよ、えーもうこんなに大きくなって、まあ立派になってねえ、アレックスに似てきたんじゃないの?」

 ヒイロは驚いてシエラとクリスの顔を交互に見比べた。

 どうやら、シエラもダグラス同様、昔のクリスとアレックスの知り合いのようである。

「いや、アレックスに似てきたっていうのは、ちょっと……それに、身長もそんなに伸びてないよ」

「あら、そお? で? また怪我? また何かやってるの? いーわ、とりあえずいらっしゃい。足折れてるの、それ?」

 立て続けに色々質問されてクリスが苦笑する。

 ヒイロはまるでシエラとクリスが母親と息子のようだと思った。

 とりあえず黙ってクリスがシエラについて行く。まず最初に足のレントゲンを撮るらしい。ヒイロがダグラスに話しかけた。

「あの人、クリスとかアレックスとかと知り合いだったんですね」

「ああ、昔からな。でも俺の愛人というのは、嘘だ」

 ダグラスはそう言って待合室の雑誌を広げた。

 

 

 そうして、クリスはしばらくしてからシエラに怒られながら戻ってきた。

「まーったく、あんたはどーしてそうなの!? 無理しちゃだめでしょ! いい? そんな無理ばっかしてると命がいくつあっても足りないわよ!」

「ごめん……。でも生きてたからいいだろ? 足も折れてはいなかったしさ」

「あの、シエラさん」

「はい?」

 ヒイロが声をかけると、シエラははじめてヒイロの方を見た。

「シエラさんは……ウイルスのこと、知ってますよね?」

「……もちろんよ。それが、何?」

「いいですか、ちょっと……」

 ヒイロはシエラを診察室の方に促して、自分も入っていった。

 ヒイロは普通の受診の時のように机の前に座るシエラの前の椅子に座り、自分がウイルスにかかっていること、そしてウイルスをつくっているロジャーのこと、大体わかっているウイルスの作用、それからロジャーがくれた薬でウイルスが体内で増殖しないようになっていることを話した。

 シエラは一通り聞き終わると、「すごいわね」と言ってため息をもらした。

 そしてヒイロの方をしっかりと見つめると、

「それで、何か私に用があったんでしょ?」

と言った。

 ヒイロは頷いて、こう言った。

「HIV用の薬の中で一番強いの、どうにかして手に入りませんか」

 ヒイロの突拍子もない申し出をさして驚くでもなく聞き流すと、シエラは頬杖をついてため息をついた。

「あなたの言いたいことはわかるわ。免疫系へのウイルスの働きを少しでもストップさせたいんでしょ?」

「はい」

「……無駄だと思うわ。だって軍だってそれなりに調べをしているはずだから、現在流通している薬は全部実験済みのはずよ」

「わかってます。でも、今は少しでも時間が欲しいんです。お願いします。ロジャーが、完成した薬を作るまで」

「……」

 シエラは目を閉じた。

 そして、再び目を開けると、ヒイロの頬を両手で包むようにして、訊いた。

「ねえ、あなたのお母さんはこの事を知っているの?」

「いえ、全然」

「家族のうち誰一人?」

「誰も」

「そう……」

 シエラはまたため息をついた。

「わかったわ。この間学会で発表された試験段階のものを手に入れてみるわ。あなたが助かる可能性が少しでもそれで増えるなら」

 ヒイロはやっと安心したように肩の力を抜いた。

「クリス──あの子昔はアレックスの後をついてまわってばかりだったのに、ずいぶんしっかりしたのよ。私にとってはあの子とアレックスは子どもみたいなものなの。だから、あなたのお母さんがそのウイルスのことを知ったときの気持ちが分かるの」

「……」

「あなた一人の命じゃ無いから。クリスにも、そう言っているのよ」

 シエラは、ヒイロに微笑むと、ヒイロの肩をぽんと叩いて、立ち上がった。

「さ、行きましょう。薬は何とか今週中には届くようにしてみるわ」

 ヒイロ達がダグラスの家に帰ったとき、ミスティとカークは、口論している真っ最中であった。というのは、ミスティが一日たって少しだけのびた髪の毛(スキンヘッドというのは毎日うすら青くなるのでお手入れが大変らしい)を、せっかくだから真ん中だけ残してモヒカンにしてみようと言ったからである。カークは、

「スキンヘッドだけでもかなり参ったのに、これからモヒカンになるようにのばされたら冗談じゃない!」

と彼自身の美学を主張した。

 ミスティはヒイロの所に飛んできて、自分の頭を自分の好きにするのは個人の自由であることを主張した。当然ヒイロは苦笑いして、

「……でも……モヒカンはやめた方がいいんじゃない? 俺も、そう思うよ。だからきっとロジャーもそう思うんじゃないかなあ……」

と言った。ロジャーの名前を出されたミスティは急に弱気になり、

「そっか……お前もそう思うならきっとロジャーもそうだな……」

と納得し、のびかけた両サイドの髪をそり落とすための剃刀を置き、頭をバンダナで巻いた。

「これならいい?」

「……そうだね」

 ヒイロがそう言うとミスティは満足したようににっこり笑って、それからクリスの方に視線を向けた。

「ちょっといい?」

 ミスティがそう言うと、クリスは頷いた。カークはそれを不審そうに見たが、ヒイロに

「ドーナツ買ってきたよー」

と言われ、有無を言わされずにダグラスと共にリビングに連れて行かれた。

 一方ミスティの方はクリスを連れて外に出た。

 

 

 

 

 

 時刻はもう夕方だった。

 少し疲れたような二人の表情は今までのごたごたを物語っていた。

 ミスティが玄関前の庭に座り込むと、クリスも座った。

「ねえ、アレックスのこと、どう思う?」

「どうって……」

「ちゃんと帰ってくんのかな、って思わない?」

「……」

 クリスはミスティの言葉に答えず、LUCKY STARと書かれた箱からタバコを取り出すと、ちかちかする変なライターで火をつけた。

 クリスの口から細い糸のように煙が吐き出される。

「帰ってくるかなんて、そんなの、俺がわかるわけないだろ。アレックスは俺の考えを超えたところにいるんだから。この十年間、俺がただ単に逃げ回ってるときに、あんな事を考えていたなんて……調べ方が違うよ。しかも今は敵の上層部でその実体に近づきつつあるわけで。それがすげえあぶないことだっていうのはアレックスが一番わかっているだろうよ。でもそれでもやってるわけだからさ、そのフリーメーソンてのがかなりやばいことを考えているのは間違いない」

 クリスはそう言うとまたタバコを口にくわえた。

「何がどう関係してんのかあたしよくわかんないよ。何でそんなやつらがロジャーに、父さんの時だって……ウイルスを作らせるの? ヒイロを巻き込むの? アレックスがあんなに危険なことをなんでしなきゃならないの?」

「メーソンの組織は途方も無いって聞いたことがある」

 クリスはまた煙を吐いた。

「最上層部には神に一番近いクートブと呼ばれる人物がいて、その下に数人の聖者。そいつらがこの世の精神世界を動かしているんだってよ。そしてその下には世界有数の財閥が24家族も集まってる。そこからさらに大きく広がっていって、俺らが知ってるメーソンの活動はほんの下っ端。あのボーイスカウトだってメーソンの一部なんだぜ? アメリカはおろか、国連もメーソンの差し金で作られたって言うし。もしその組織が、組織ぐるみでやってるんだとしたら間違いなく俺達は勝てない。だけど組織ぐるみでやるには少し理由が足りないから、アレックスは動いているんだと思う」

「じゃあ結局……組織ぐるみでやってるなら、あたし達はウイルスをどうにもできないってこと?」

「ロジャーを助け出して、ヒイロを何とかするだけならできる。そしてみんなで逃げてどこかへ隠れるとか、な。だけどマジであのウイルスをばらまかれたら世界中の人類が間違いなく死ぬ。もちろん俺達も」

「……」

 ミスティは大きく息を吐いた。

「あたしにも一本くれる?」

 ミスティが目でクリスを見ると、クリスはまた箱から一本取り出して、変なライターで火をつけた。

 ミスティはぷはぁーーっと豪快に煙を吐き出すと、ごろんと横になった。

「あたしね、父さんが死んだときさ、ロジャーと二人で死にそうになりながらダウンタウンにかけこんだんだ。すごい恐かった。後ろからすごい大勢の人が追いかけてきて。でもやっとダウンタウンに入った頃追手もいなくなって、あたしはロジャーと二人でほっとしていた。でもダウンタウンにいた人達にはその頃のあたしには知らない、恐い人がたくさんいて、あたしは殺されそうになった。そんときに助けてくれたのがアレックスなんだよ」

「……」

「アレックスさあ、そんとき自分が使ってたアパートにあたし達を入れてくれて、あたし達の話聞いてくれて。すごい安心したんだ。アレックスはあたし達の話を聞き終わると、あたしにこのダウンタウンで生きていけるように最低限自分の身を守れるようにって色々教えてくれた。銃も持たせてもらったし、素手の喧嘩とかも。でもあたしがカークに勝っちゃって、そしたらいなくなっちゃった。やらなきゃいけないことがあるって。それで十年近く会えなかった。だから今度もさあ……」

 ミスティはまた煙を吸い込んだ。

 クリスは空の遠くを見つめている。

「……帰ってくるんじゃない? それか、また死んだ事にするとか」

 クリスはぼうっとした声で言って、笑った。

「やだよそんなの。ねえ、後でアレックスの携帯かけよう。心配だし」

「心配? そんなんいらねえよ。……でも、そうだな」

 クリスは短くなったタバコを地面に落とし、立ち上がってそれをもみ消した。

 ミスティも上半身を起こす。

「あのさ、あたしさ……アレックスの事、大好きだよ。そうだろ、クリスも?」

「……ああ」

 クリスはミスティの方をみないで答えた。

「でもちゃんと帰ってきますようになんて神様にお願いしたりするなよ。アレックスは宗教嫌いなんだから」

 クリスがそう言うと、ミスティは声を立てて笑った。

 

 

「何言ってんのかわかんねー! ちくしょお!」

 窓から二人の様子を見ていたカークが一人で苛立っていた。

 コーヒーを持って入ってきたヒイロが変な顔をする。

「何? 何独り言いってるの?」

「うるせえっ!」

 カークはヒイロの持っていたコーヒーカップを奪い取って一口飲むと、

「あっちい!」

と叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日ヒイロはダグラスの家に置いてあったパソコンをいじっていた。ヒイロはしばらくその前で座っていたが、突然何かを思いだしたようにダグラスに声をかけた。

「ねえダグラスさん。これさ、俺のメールもとれるようにセットアップしてもいい?」

 ダグラスは近くのソファで横になっていて、ヒイロの方に非常に億劫そうに顔を向けた。

「あ、それ、俺全然使ってねえから、好きにしていいよ」

 ヒイロは小さくありがとうと言うと、またパソコンに向かった。

「ヒイロ何やってんの」

 頭にバンダナを巻いたミスティが入ってきて声をかけた。

「ん? 大学のグループからもしかしたら何かメール入ってるかもしれないから。俺ずっと学校行ってないし」

「ふーん」

 ミスティは持ってきた氷の入ったオレンジジュースを口にしながら珍しそうにヒイロを眺めた。

 しばらくしてヒイロはセットアップを終えると、来ていたメールに目を通し始めた。

 やっぱり大学関係のメールが多くて、ヒイロはそれ全部に「最近具合悪くてしばらく学校は行けそうにない」という返事を返すことにした。

 そしていくつか見ていくと、そのなかにケン・イケガミからのものもあるのに気がついた。

「ケンからだ……」

 ヒイロが呟くと、それまでどうでもよさそうだったミスティが飛んできて画面を覗いた。

「何、何て書いてある?」

 内容はこうだった。

──ヒイロ元気? 最近学校来てないよね? この間図書館で会ったときレポートやってるって聞いたんだけど、まだ出してないでしょ? 教授にはなんとか適当に言ってごまかしてあるから、もし具合悪いんだったらメールでも何でもいいから、送ってくれればこっちで印刷して提出してあげられるけど? 

 それとこの間電話したんだけど、全然違う人が出た。もしかして電話番号変えちゃったの? 何で? 何かあったの?

 よくわかんないけど、とにかくレポートは出さないと単位つかないから、絶対出した方がいいと思うよ。何かあったんだったら僕ができることはするから。

 学校のみんなも心配してるよ。連絡くらいした方がいいんじゃない?

 それじゃあね。                  ケン──

「まるで何にも知らないようなメールだな」

 ミスティが言った。

「うん……。そうだなあ、レポートどうしよう……」

 図書館へ行った後、そのままここへ来ることになったヒイロには、一応手元に書きかけのレポートがある。それをこのパソコンで仕上げて、ケンに送ることは可能かもしれない。しかし──

「ケンはお前を騙そうとしてるんだよ。あいつはこのあたしに、メーソンと関係してることをちゃんと言ったんだから。あいつは敵なんだよ」

「そうなのかな……」

 ヒイロは何となくしっくり来ない様子で次々とメールを読んでいった。

 そして、またケンからのメールがあった。

「まただ……。さっきのの翌々日に書いてる」

──ヒイロ大丈夫? 病気? このメール読んでる? ねえ、ほんとみんな心配してるから早く来た方がいいよ。ヒイロがこんなに休むなんて信じられない。

 レポートは? もうやばいよ。早く出しなよ。

 学校来たくないの? 何かあったんだったらほんと連絡してよ。心配だよ。

 このメール読んでるんだったら絶対返事かいてよ、いい?

 ヒイロ日本に帰ったんじゃないかってみんな心配してるんだから。   ケン──

「白々しい。お前のこと本当に心配してるみたいに書きやがって」

 ミスティが忌々しくはき捨てる。ヒイロは首を傾げた。

「ケンはいつもこうだよ。……やっぱり、信じられない」

 そう言ったヒイロをミスティは睨み付けると、怒鳴った。

「お前は甘いんだよ! お前はあいつにはめられたんだ! わかんないのか!? おかげでウイルスにはかかったし、しかもあいつに銃で撃たれたんだぞ! 友達とかそういう次元の問題じゃないじゃないか! これだから平和主義の日本人は駄目なんだ! 甘すぎるんだよ、そんなんじゃお前すぐ殺されるから!」

 ミスティは怒ったように立ち上がって、部屋を出ていった。

 ヒイロは複雑な顔でその後ろ姿を追ったが、視界に入ったダグラスがすごく気持ちよさそうにいびきをかいているのを見て思わず笑ってしまった。

 そして、続きを見る。

 ケンは何度も何度もヒイロにメールを出していたようだった。

 ひどい日には一日に5通くらい来ている。よほど心配したんだろう。

 ヒイロは「絶対に返事を書け」と毎回書いているケンのメールを見ておかしくなった。

 そして、あるメールには追伸でおかしなことが書かれていた。

──追伸・ヒイロには話しておきたい事があるんだ。僕はいつもそれに脅えている。誰にも打ち明けられないから、ヒイロに聞いて欲しい。それはこのメールで書くような事じゃない。もし僕がここで書いても、君は僕の脳がおかしくなったと思うだけだろう。でもそうじゃないって事を伝えたい。いつでもいい。時間ができたら、どこかで会いたい。病気で家から出られないんだったら、僕が会いに行くから。でも住所も変えてしまっただろ? だからとにかく返事を書けよ。いいな?          ケン──

 ヒイロは不審に思い、すぐさま返事を打った。

──ケン、あんま大丈夫じゃないけど、元気だよ。でも学校にはとてもいけそうにない。もう少ししたらメールにくっつけてレポートを送るから、悪いけど出してくれる? それから、何? 言いたい事って何? 別に頭おかしいと思わないから、メールで教えてよ。とても今は人と会える状態じゃないんだ。今まで色々あったからメールかけなかった。今からレポート仕上げるから。それじゃ。       ヒイロ──

 ヒイロは打ち終わって送ると、すぐさまレポートの作成にとりかかった。

 

 

 

   ー8ー

「ケン・イケガミにメールを書いただって!?」

 夕食でピザをとって食べているときにミスティとカークとクリスが同時に大声を上げた。

「え、そんなに驚かなくても……」

 ヒイロは食べようとしたピザから口を離した。

「驚くも何も、お前何考えてるんだよ! こっちが今ちゃんと生きてて、そんなメール書けるくらいの状態だってばればれじゃないかよ!」

「そうだぜ、したらこっちが今どこにいるかってゆー見当ってのもついちまうってわけじゃねえか!」

「こいつ、ケンの普通っぽい言葉に騙されてまだお友達だと思ってるんだよ、まじ甘いんだから」

 クリス、カーク、ミスティと順番に言われ、ヒイロは押されるようにテーブルから思わず遠のいた。

「で、でも……。平気っぽいし……あのさ、俺は、なんかケンが無理矢理ああいうのやらされてるんじゃないかって気がしてきて、その、ケンのメール読んでるうちに……だからその……」

「いや! そんなわけない! あたし、奴等に捕まってるときケンて奴に会ったけど、すっげえ嫌みったらしくて、自分がやりたくてしょうがないからああいうことやってますみたいな顔してたよ!」

「そうだそうだ」

 見てもいないくせにカークがミスティに同意する。

 ヒイロは眉を寄せて、頭をかきながら首を傾げた。

「ケンは嫌みじゃないよ。俺、そんなことしないって思ってるよ。だってさっきのメールに書いてあったから、そんなようなこと。自分は誰にも言えないことに、脅えてるって。だからさ、やっぱり……」

「お前信じる相手間違ってるよ。俺達の方がどう見たって正しいだろ? 一方、ケン・イケガミなんてのは親父までそっちの奴で、筋金入りのメーソンなんだぜ。だから嘘だってお茶の子さいさいなわけよ」

 クリスがコーラをがぶ飲みしながら言った。

 他の奴等もみんな頭を縦に振る。

 その時、ヒイロが激しく首を横に振った。

「違うよ! 誰も普段のケンのこと知らないくせに! 俺が一番ケンのこと知ってるんだ! ケンが悪いことできないやつだっていうのは俺が一番知ってる。どう見たってそういう奴なんだよ! 無理矢理親父とかからやらされてるだけなんだよ! 絶対そうだ! そうだって証明してやるから!」

 言い切ったヒイロに、全員が圧倒された。ヒイロにとってケンはただの日本人同士の友達と言うよりは、こっちでできたただ一人の親友だったのだ。

 呆気にとられたミスティ達はそれ以上何を言っても無駄と判断し、もくもくとピザを食べ始めた。ヒイロもふくれたままみんなと同じようにピザをもくもくと口に運んでいた。

 

 

 ヒイロはケンの携帯にかけてみた。数日前にはつながらなかったが、もしかしたら今ならつながるかもしれない。メールを書いてきているくらいだから。

「はい」

 ケンが出た。思った通りだ。

 ヒイロは一度ためらったが、

「俺だけど」

と言った。ケンはヒイロの声を聞いただけで誰だかわかったようで、

「一体どうしたんだよ今まで」

と言ってきた。

 ケンは一応メールはしっかり受け取ったからヒイロのレポートはこれから出す、と言った。ヒイロはどう考えてもケンがウイルスの事なんかと関係がないように思えてきた。会話にこれっぽちも後ろめたさがないからだ。

「ケンも、何がどうしたって?」

「うん……。ここじゃあ、ちょっと言えないんだけどさ」

「何?」

「ヒイロは病気じゃないの?」

「うーん……一応……」

「明日会える?」

 ヒイロは返答に困った。ミスティ達に知られたら怒られるどころの騒ぎじゃない。しかしどうしてもヒイロはケンが一体この件に絡んでいるのか、いないのかということを確かめたかった。

「いいよ」

 今一応サンフランシスコにいるんだけど、と言いかけて、やめた。どうせクリス達と乗ってきた車に乗り、朝出発すればLAまではそんなにかからない。

 ケンはいつものように大学の近くの喫茶店で待ってる、と言うと電話を切った。

 

 

 翌朝、クリスはダグラスに頼まれてダーウィンの散歩に行こうと外に出たときに、自分たちの乗ってきた車が無くなっていることに気がついた。

 不審に思ったクリスは、もう一度家に戻り、それからその事を伝えようとヒイロとカークが寝ている部屋に入った。

 すると──豪快にいびきをかいて寝ているのはカークだけで、ヒイロの姿はみあたらなかった。クリスはカークを蹴ってたたき起こすと、ヒイロはどこにいったか知ってるかと尋ねた。カークは熟睡していたのでそんなことわかるかよ、と言った。

「あいつ、ケン・イケガミの所へいきやがったな……」

「な、何で……」

 カークが跳ね起きた。

「昨日あいつ誰かと電話してたんだよ、間違いない。車使っていったってことは絶対LAにいってるはずだ」

「ばっかじゃねえの!!」

 ヒイロが喫茶店に着くと、すでにケンは窓際の席でコーヒーを飲みながら本を読んでいた。いつもと大して変わらない光景である。

「ケン」

 ヒイロが声をかけると、ケンは顔を上げた。

「病気でやせこけてるかと思ったけど平気そうだね。……何か頼んだら」

 あまりにケンが普通なのでヒイロは逆に居心地が悪くなった。たとえミスティ達の前であんなことを言って見せたとはいえ、半信半疑だった自分が情けなくなったからだ。ケンは何もおかしな所がない、ただの普通の友達じゃないか。それを疑っていたなんてばかばかしい。もしかしたらこの件のことを何も知らないのかもしれない。あの時銃で自分を撃ったのはきっとケンじゃなかったんだ──。ヒイロはそう思い始めた。

 ヒイロの頼んだコーヒーが来たとき、ケンは読んでいた本を閉じてヒイロの方を見た。

「あのさあ、心理学って興味ある?」

 突然妙なことを言ったのでヒイロは驚いてケンを見た。

「……何言ってるの?」

 ヒイロは俺は精神科専攻じゃないよ、と呟いてコーヒーを飲んだ。

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