終章

その昔、天から大きな、燃える石が降ってきたことがあった。
燃える石は次の日には光り輝くかたまりに変わっていたという。
一人の鍛冶屋は、その石を切り取って剣を作るように命じられた。
命じたのは一人の王。
王はその剣を国の平和の象徴にすることを、鍛冶屋に告げた。
鍛冶屋は一世一代の大仕事と、七日七晩寝ずに石と向かい合った。
一日、二日、三日……そして七日目の晩。
あまりの疲れに朦朧としていた鍛冶屋は、突然誰かの声がするのが聞こえた。
すると作りかけの剣が輝き始め、不思議と鍛冶屋はふっと体が軽くなるのを感じた。
そして道具を握り治すと、鍛冶屋は突然何かに憑かれたようにまたカーン、カーン、と大きな音を立てて作りかけの剣をうち続けた。
翌朝、鍛冶屋が気がつくと目の前には黄金に輝く立派な剣ができあがっていた。
――これは。
鍛冶屋は剣を手にとって何故か体が震えるのを感じた。
――これは、私がつくったものではない。
そう思って首を振り、鍛冶屋は剣の鞘に目をとめた。
鞘にはいとも不思議な文様が刻まれており、鍛冶屋は目を見張った。
――これは私が成した業ではない。神が成されたものだ。
鍛冶屋は剣を王に差し出した。その時、鍛冶屋はこんな事を言った。
――この剣を平和のために使ってください。
この剣は、神がつくりたもうた剣でございます。
争いのために使うならばきっと天罰が下ることでしょう。
王は鍛冶屋に約束した。必ず、平和のために使うことを。
その後約束通り王は立派に国を治めた。
国は豊かになり、平和な時が過ぎた。
しかし。

王を良く思わないものがいた。それは、王の亡くなった兄の息子であった。
その王子は、ある時こっそり王の剣を盗み、そして王を殺そうとした。
――父上を殺された恨み、はらさずにおくべきか。
王子はそう言って王を殺した。
剣は王の血でべっとりと赤く染まり、そして青白く光を帯び始めた。
用を終えた剣を手放そうと、視線をさまよわせた王子は、すでにそれが遅かったことに気がつく。 脈々と剣から躯へと伝わってくる狂気は、すでに王子を捕らえていた。
王子は、その場にいた他の人間全てを斬り殺した。
――足りない。
王子は呟くと、あらたな血を求めてさまよい歩いた。
斬っても、斬っても、斬っても、斬っても、
王子は、いやその剣は満足しなかった。
――父を返せ。
 そう叫ぶのは王子の声か。剣の声か。
やがて国中のほとんどの人間が剣の前に倒れたとき、王子の前に一人の女性が現れた。 ――あなた、やめてください。
王子の妻はそう叫んで両手を広げた。狂気に捕らわれた王子にはその声すら、聞こえない。
そして王子は、愛するその女性をも、一太刀の元にまっぷたつに切り裂いた。

――何て事を。
狂気に身を任せていた王子はその時に我に返った。
そして、自らの胸に剣を突き立て、愚かな行為に終止符を打った。

呪いの剣は鞘におさめられたまま、森の奥の神のもとに届けられた。
神はそれを受け取り、少しだけ微笑んだという。
遠い遠い昔の、哀しい話。

 

おしまい。
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