三章

 その日叶は喬の遺体が安置されている殯の宮へ告別の儀式に来ていた。本来ならば親族は故人が亡くなってからすぐに告別に来るのだが、喬が死亡した当時叶はその喬を殺害した疑いをかけられていた。そのため、儀式は文武百官の告別のあとにまわされ――つまり三ヶ月近くもの間、喬の遺体に別れを告げることができなかった。
 白い喪服を身に着けた叶は、付き添いに棗と風眞のみを従えて神官の言う儀礼の通りに淡々と儀式を進めた。言葉を発さなければならないときは、棗が叶の代行を務めた。
 宮はたくさんの花で埋め尽くされており、香も焚かれていた。長い間安置されている遺体の死臭を隠すためとすぐにわかる。棺の周りは大量の花々で囲まれていた。
 儀式の途中に遺体が安置された棺としばらく時を過ごす時間がある。その間も一言も叶は言葉も声も発することがなかった。用意してきた菊の花を棺の上にかぶせるようにおいただけで、その後は座り込んで身動きもしない。
三ヶ月も経ってしまったせいなのか、表情には別れを惜しむような表情も見受けられなかった。ただ黙って無表情で棺を見つめるその姿はある意味異様だった。
 長い儀式をすませ、宮を出て車に乗ろうとしたときだった。神官が声をかけた。
「叶様は、喬王子と親しくされていたそうですね。お別れは、よくなされましたでしょうか」
 傷心の子供を気遣う、優しい声と笑顔だった。
「――」
 車に乗ろうとした動作を、叶が一瞬止める。優しい笑みをたたえた神官を見た。叶がうなずくのを待っているのだろう。
 叶はそんな神官をしばらく見つめ返した。
やがて、そのまま何の反応も見せずに車に乗り込む。神官の顔を見上げた風眞は、彼がなんとも言えず驚いている表情を見た。そのまま、車が動き出す。
 あわてて風眞は徒歩でそのあとに続いた。

 東の方からやわらかく低い光が差し込んでくる。
 御簾をあげると、小鳥がさえずりながら飛んでいく姿が見えた。
「あれ、もう桜が咲く時期になったのかえ」
 御簾をあげた棗の後ろから、高い澄んだ声がした。
 菖蒲の妹――女御で雅葵の母親の皋である。近頃何かと棗を呼びつけているのはこの皋であった。
「もう春になりますからね」
「夏の前には冬葵王子が王位をお継ぎになられますじゃろうか」
「きっと・・・・・・」
 棗は小さく答えて下を向いた。
「ほんに冬葵王子以外に次王ふさわしいものもおられんじゃろうに、このように後継者決めで時間がかかるのは何故じゃ。姉上もお心を傷めておられる。はよう決めていただくよう国王にも申し上げなければならぬかの」
 近頃皋のする話と言えば姉の産んだ冬葵王子と楓という別の女御が産んだ吟王子の後継者争いの話ばかりだった。いい加減棗はうんざりしていたが、皋の呼び出しには逆らえない。
 皇后桔梗が病に倒れ、実質的に皇后と同じ地位をしめている菖蒲の妹として、皋の後宮での地位は徐々に高まっている。新しい殿舎を与えられ、身の回りの世話をする女房や女官も増えた。その増員のうちの一人として棗は駆り出されているのだ。
「そういえば、棗、あの叶とかいうものは元気かえ」
「はい。叶様にはつつがなくお暮らしです」
 皋には叶が王子の一人だという認識がほとんどない。そもそも身分の低い叶の母親、常葉が后のうちの一人ということすら認めてはいなかった。
「あの子供がたたられているという噂は本当か?」
「え、何故でございますか」
「ほら、亡くなられた喬王子よ。あの方がたたっていると」
「しかし、叶様は・・・・・・」
「喬王子を殺してはいないかもしれぬが、何しろあの子供は薄気味が悪い。噂では声がでないそうではないか。母親だってそうじゃ。お前もあのような子供に関わらぬほうが身の為ではないかえ」
「・・・・・・」
 棗は俯いた。
 叶に関わること、それはすなわちすでにここでは出世の道から外れたことも同然だった。このまま行けば、風眞は落ちぶれて田舎に戻るより他がなくなる。
――それでも。
 叶を一人にすることはできないと棗は思う。
風眞と二人、最終的に田舎に戻って暮らすのも悪くないだろう。もしかしたら、妙に息苦しい宮中で暮らすよりも、そのほうがかえって幸せかもしれない。
 棗がぼんやりと考えていると突然、ぱたぱたと足音をたてて廊下をかけてくるものがあった。
「皋様!」
「何事じゃ。そのように騒がしく・・・・・・」
「若彌様が、突然亡くなられました!」
「何!?」
 若彌とは、皋の姉、菖蒲が産んだもう一人の王子。王位継承権を争っている冬葵の弟である。
「何故じゃ! 若彌王子がそのように突然亡くなられるわけが・・・・・・」
「喬王子のたたりと、神官が申しております!」
「馬鹿な! 何故若彌王子がたたられねばならぬ!」
 皋は急に立ち上がった。
「おのれ・・・・・・藍氏の仕業か!」
「ただ今、菖蒲様、国王、および神官と楓様などが一堂にお集まりです」
「私も行く。案内せい」
 着物のすそを翻し、あわただしく皋は部屋を出て行く。
 その後を数人の女官が追った。
 棗は呆然とその姿を見送ることしかできなかった。


 じっと風眞は棗の話を聞いていたが、最後になって大きく首を横に振った。
「いやです」
 肩の位置で切りそろえた黒い髪が揺れる。口を一文字に結び、強い眼差しで母親を見つめていた。
「ぼくが雅葵王子のもとへ奉公などいくことになったら、叶様はどうなるのです。母上は皋様のところへ行かなくてはならないのに、一体誰が叶様のお世話をするのですか」
「しっ・・・・・・風眞、声が大きいですよ」
 まだ日も出ているかいないかの、早朝の出来事だった。
 叶がまだ眠っているのを見計らって、棗は風眞にあることを切り出した。
 それは、以前皋に言われたことである。
――お前の子、この王宮で一生勤め上げる気なら、今のままでよいわけがないことくらいわかっておろう。年のころも丁度雅葵の遊び相手に良いのではなかったかえ。
 風眞の将来を考えるならば願ってもない誘いだった。しかし。
「母上、ぼくは叶様を一人にはできません。母上こそどうして、そんなことをぼくに言うのですか」
「風眞。この王宮で、あなたが生きていくならばそうするのが一番良いのよ。叶様のことは、私がお世話さしあげます。あなたはこのままでは、いずれ叶様がもしものとき、一人で田舎へ帰らなければならなくなるのよ」
「ぼくは・・・・・・」
 風眞はこぶしを握り締めた。
「ぼくは、それでもいいです。今までずっと一緒だった叶様を一人にして、ぼくだけ王宮で雅な暮らしをしていくなどいやです。それなら、いつか母上と一緒に貧しい田舎に帰ることになってもいいです」
「風眞・・・・・・」
 棗はわが子を見つめた。生まれてからほとんどの時を共に過ごしてきた叶は風眞にとって身分こそ違えど、家族のようなものなのだろう。もちろん、それは叶が幼い頃から世話をしてきた棗も同じだった。たとえわが子の将来のことを考えたとしても、もう一人のわが子――叶に不憫な思いはさせたくない。
「ぼくは、まだ子供だし将来だってここにいると決まっているわけじゃない。それよりも体の弱い叶様のほうが心配じゃないのですか」
 見上げてくるわが子を見て、棗はゆっくりうなずいた。
「・・・・・・そうね。風眞の言う通りね」
 その言葉を聞いて風眞の表情が明るくなった。棗は少し前よりいくらか背が伸びたその頭を撫でた。
「でも母さんは長いこと王宮に仕えてきた色々な事情があって、皋様のお呼びを断れないの。今日も一人にしてしまうけれど、ごめんなさいね」
「大丈夫。母上も無理しないでください」
 そう言って風眞は笑った。子供らしくない、もののわかった大人のような笑顔をしていた。
 棗が勤めに行くと、すでに皋の殿舎はいそいそとした雰囲気につつまれていた。
「ああ、棗」
 駆け寄ってきたのは棗と同じ頃、後宮に仕える女房として勤めを始め瀧クである。後宮に勤め始めたばかりの頃は、すっとした顔立ちで着ているものさえ上等だったらどこぞの姫君かと間違われそうだったが、今はその面影もなく頬に体に肉がついている。
「随分そわそわしているのね」
 他の女房たちの様子をうかがいながら棗が聞いた。
「大変なのよ。亡くなった若彌王子の埋葬をすぐにでも執り行うらしいの」
「え?」
「しかも、喬王子の殯を切り上げて、若彌王子と一緒に埋葬するらしいわよ」
「でも、まだ陵墓の準備だって・・・・・・」
「国王のお父上の陵墓に埋葬されるそうよ」
「そんな話って・・・・・」
 ありえるはずがない、と棗は思った。
 戴冠式直前だった喬王子の葬儀は、国王級のしきたりで執り行われる。ならば殯の期間はどう考えても最低半年から一年はあるはずだ。喬王子にはそれなりに立派な陵墓も準備されていて、まだ建設途中だった。
「国王のお父上の陵墓に、王子が二人そろって埋葬されるなんて、前例がないわ・・・・・・」
「でしょう。何故かというとね」
 キクはそこで言葉を切った。
「どうも、たたりがあるかららしいの。ほら、先日神官が若彌王子はたたりが原因で亡くなったと言ったらしいでしょう。だから殯の期間も短くして、まとめてさっさと埋葬してしまうということなんじゃないのかしら」
「そんな馬鹿な・・・・・・」
「でもそういう前例はあるらしいわよ。不幸な亡くなり方をされた国王を、殯もなしに前王の陵墓に埋葬したとか」
「そういうものなのかしら」
「だから、今は儀式の準備で大変なの。ほら、ぼうっとしていないでさっさと仕事しましょ」
 キクは腕まくりをした。
 国王の葬儀は通常一年程度かかる。亡くなってから十日の間儀式が行われ、遺体が殯の宮に安置されてから陵墓の建設が着工される。故人の希望により規模は様々だが、喬の場合遺言も何も無かったために、質素すぎず豪華すぎないほどよい程度の陵墓が小高い丘の上に建設されていた。
 本来ならば半年から一年で陵墓は完成し、その時期にあわせて埋葬の儀が執り行われる。埋葬の儀では長い行列を組み、棺を陵墓まで運ぶ。二度と死者が帰らないように、専用の門を通ってから陵墓に向かう行列は果てしなく長い。多くの后や王子、王女、そして王族の者たちや文武百官、神官などが儀礼に参加する。陵墓に着いた後は長い儀式が行われ、遺体が陵墓に埋葬されるのだ。
 喬と若彌の埋葬の儀には当然叶も参加することになる。
 叶のもとへ案内の文を女官が持ってやってきたのはその日のことだった。
「明後日、大変急ですが喬王子と若彌王子の埋葬の儀を行いますゆえ、ご参加いただけますよう」
 風眞はあいた口がふさがらなかった。
「そんな、お二方の葬儀を一緒にされるなんて聞いたことがないです。それに、若彌王子はまだ十日の儀礼が済んでいないのでは・・・・・・」
「今回は特例でござります」
 そう言って女官は着ている喪服と同じくらい白い指で文を差し出した。
「王宮に死穢が広まるのを防ぐためでございます。叶様もご参加いただけますな」
「あ、それは・・・・・・はい、もちろんですが」
 納得がいかず、首をかしげながら風眞は文を受け取る。
「それから」
 女官が付け足すように言った。
「叶様にもきっとよく身を清められて儀礼に参加されますよう。先頃の告別の儀の後はきちんと穢れを落とされましたでしょうか」
「あ、はあ・・・・・・」
「無念に亡くなられた喬様の怨念は相当なものと神官も申しております。穢れにあてられてはもしもということがございます。すでに叶様はたたられているのではないかと申すものもおりますので」
「は? 今、何て・・・・・」
「叶様がたたられているのではないかと。穢れにあてられているのではないですか」
「そんなわけが・・・・・・第一、喬様はたたったりなんかしません」
「神官が申しております。そのたたりによって、先日若彌王子も亡くなられたのだと」
「何で・・・・・・」
 風眞は眉根を寄せた。何故神官がそんなことを言うのか。その理由女官に聞こうとしたとき、先に女官が口を開いていた。
「とにかく、身を清められてからご参加いただけますよう。これは、亡くなられた若彌王子の母君、皇后代理菖蒲様からのご命令であります」
 凛とした声でそう言い、女官は一礼するとさっさときびすを返した。
 風眞は下唇を噛んだまま女官から受け取った文を握り締めていた。

 埋葬の儀当日、日が昇る前に支度を済ませた叶は王宮の西に位置する母常葉の墓標へと向かった。うっすらと霧雨が降っている。肌寒い早朝だった。
 ひっそりと小さな石が並ぶそこは、後宮で暮らした位の低い后のための墓場である。見守るように小さな寺院がよりそい、そこに住まう尼が供養を行っていた。
「――」
 墓標の前で膝を折り、叶は目を閉じていた。
 何を考えているのだろうか。叶が濡れないよう、傘をさしだしながら風眞はその姿を見つめていた。
 やがて半刻もしたころ、叶が立ち上がった。ゆく、と風眞に目で合図する。そして手で風眞の持っていた傘をのけた。
「雨が」
 あわてて傘をさしだそうとした風眞に、叶は上を向いてみせた。
 雨があがっていた。
 埋葬の儀は粛々と行われた。
 国王の近親の一族の列でも叶は最後列、輿に乗ることもゆるされなかった。棗が皋の列に加わっているため、従者も風眞一人。子供二人桐で舎人がつ叶というのは異常である。
 儀式には国王が参加していた。無事に埋葬が終わり、儀式が終了したところで叶と一度すれ違ったが、声をかけることもなかった。
 皇后の姿は無く、かわりに喬が亡くなってすぐに出家していた二人の妹、紫苑と素馨が参列していた。髪をおろし頭巾を被り、すっかり尼僧になっていた二人は叶の姿を見つけると、すぐに駆け寄ってきた。
「叶・・・・・・」
 すすり泣きながら紫苑は叶を抱きしめた。横で妹の素馨も涙を流している。
「叶、声が出ないって本当なの」
 叶の顔を覗き込みながら紫苑が問いかける。無反応なその姿を見て、さらに涙を流した。
「かわいそうに・・・・・・とても辛いんでしょうね」
 目を伏せて、小さく紫苑は「ごめんなさい」とつぶやく。
 白い頬を水滴がつたっていく様子をまるで観察でもしているかのように、ぼんやりとした表情で叶は紫苑を見つめていた。素馨が細い手でそんな叶の頭を撫でる。
「あなたも、王宮を出て俗世を捨ててしまうのが一番幸せなのかもしれないわね」
 叶がそう言った素馨を見上げる。
「そうね」
 紫苑もうなずいた。
「・・・・・・王宮の恐怖から逃れるには、多分その方法が一番なのよ」
 しばらく叶は二人の義姉を交互に見つめていたが、やがて、紫苑が握っていた手を離した。そしてそのまま二人に背を向けて歩き出す。思わず、かがんでいた紫苑は立ち上がった。
「叶」
 叶は振り返らず、陵墓の石碑の方へ歩いていく。あわてて風眞は後を追った。
 そしてそれから数刻。
 皆がそれぞれに解散した後で、叶は陵墓の前に立ち尽くしていた。
 石碑には今まで国王の父だった男の名が刻まれていたが、そのすぐ下に新しい字で喬と若彌の名が刻まれている。なんとも不恰好な石碑だった。その石碑を、叶が見つめている。
 夕暮れも近づき、そろそろ春といえどまだ風も冷たい。どう声をかけようか迷っているとき、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「叶様、風眞」
 皋一行と一度王宮まで戻った棗が小走りに駆けてきていた。
「早く帰りましょう。たたりや穢れに皆が敏感になっているこの時期に、こんな場所にお一人でいらしたなど知れたら大変なことになります。風眞も何故ずっとそこにいたの」
「母上・・・・・・」
「叶様、さあ参りましょう」
 棗が叶の手をとった。叶は石碑を見つめたままぴくりとも動叶。
 棗は叶の正面に回りこんでしゃがんだ。
「叶様、帰りましょう。こんな場所にいれば後で他のものに何といわれるかわかりません。神官の口からたたりという言葉が出た今、王宮内の者は皆、たたりを恐れているのです。どうか」
 叶は石碑から棗の顔に目を移した。悲しそうな顔をしている。叶の横にまわって、風眞が口を開いた。
「母上」
「どうしたの」
「喬様は、たたったりなんかしません」
 叶が風眞を見る。棗は突然のわが子の言に驚いた。
「だって、そうは思わないのですか。みんな、みんながおかしいんです。喬様はたたったりなんかしません。若彌王子が亡くなったのは喬様とは関係ないでしょう」
 訴えるように風眞は言った。しばらく考えて、棗はうなずいた。
「・・・・・・そうね。そうかもしれないわね。でも」
「でも?」
「王宮でも高官の、神官がそう言ったのだから、たとえそれが間違っていても本当のことになるのよ」
「・・・・・・」
 風眞は下唇をかんだ。一昨日の女官と話したときと同じ不条理さを感じた。
「確かに、喬様はたたりなどにはならない方だった。けれど、とにかく今日はもう帰りましょう。暗くなる前に帰らないと何と言われるかわからないもの・・・・・・」
 そう言って棗は立ち上がる。叶がかすかに頷いた。そして下唇をかんで下を向いたままの風眞を覗き込む。手を握られて、風眞は飛び上がりそうになった。
 叶は決して笑ってはいなかったが、いつもの無表情よりも少し優しい表情をしている気がして、風眞は何故だか泣きたくなった。
 棗に優しく背をおされるようにして、二人は歩き出した。

「お前か」
 大きな音を立てて戸を開けた冬葵は、後ろに屈強な舎人を二人連れていた。喬と若彌の埋葬の儀があったわずか数週間後のことである。
「お前が見たと言ったのか!? それとも、お前が喬の霊にたたりをなすように仕向けたのか!?」
 昼過ぎにゆっくりと文机に本を広げていた叶のところへずかずかと入り込むと、冬葵は叶の胸倉をつかんだ。突然のことに風眞が止めに入ろうとすると、二人の舎人にそれを制された。
「藍氏の一味に仕向けられたのなら命を助けてやる。言え!」
 叶の顔に恐怖の表情が浮かんでいる。舎人の一人に押さえつけられている風眞が叫んだ。
「おやめください! 叶様はお声がでないのです」
 冬葵はちら、と風眞を見やると口元に笑みを浮かべた。亡桔梗に雰囲気が良く似ている。けれども喬はこんなにまがまがしい笑い方はしなかった。
「声がでないだと? そういうことにして一芝居うっているのだろう? こんな風にすれ珮やでも悲鳴をあげるだろうよ」
 言うが早いか、冬葵は叶の腹部を蹴り上げた。文机に激突し、積み上げた本が崩れ落ちる。
 それでも声をあげない叶に対し、冬葵は拳を振り上げた。目じりが切れて血がにじんでも、床にた瀧つけられても叶は無言だった。ただ、苦悶の表情だけが浮かぶ。
「強情なやつだな・・・・・・」
 なおも冬葵の暴力は続いた。
 冬葵が叶を殴りつける音と、風眞の「おやめください」という悲鳴が何度も繰り返して部屋にこだました。
 やがて叶が意識を失い、ぐったりとするまでその音はやまなかった。
 失神した叶の体をその場に投げ捨てると、冬葵は額の汗をぬぐった。
「全く、どういうつもりだ」
 肩で息をしている。風眞は涙と鼻水でまみれた顔で冬葵を見上げた。その視線に気がつくと、冬葵は風眞の方へと向き直った。
「今度あいつが喋らなかったら、次はお前だ」
 そう言って冬葵が部屋を出る。風眞は押さえつけてられていた舎人に突き飛ばされた。
入ってきた冬葵と同じくらいの大きな音を立てて扉が閉まる。その途端、風眞は大声をあげて泣いていた。
「どうして・・・・・・」
 どうして叶が殴られなければならないのか。どうして叶を守ってくれた人達はいなくなるのか。どうして自分は何もできないのか。
 泣いても泣いても涙があふれてくる。
 けれども、どんなに泣いても助けてくれる人は現れなかった。
 やがて泣きつかれてうとうとしていると、いつの間にか暗くなっていて、勤めから開放された棗がいつもより早く帰ってきていた。
 部屋の中の惨状を見て、棗が声をあげる。
「母上」
 風眞は棗に抱きついて泣き出した。
「風眞、何があったの」
「冬葵王子が、叶様を・・・・・・!」
 泣きじゃくるわが子を何とかなだめて、崩れた本の間に倒れている叶に駆け寄る。
 ひどい怪我だった。棗の顔から血の気が引く。
――なんてこと。
「風眞、医師を呼んできなさい! 早く!」
 母親の叫び声にやっと風眞は我に返った。泣きはらした目をこすり、部屋を飛び出す。医師が詰めている寮へと走った。
「たすけてください!」
 戸をたたくと、いつぞやの若い医師が顔を出した。
「お前か」
「・・・・・・たすけて、たすけてください」
「どうした、発作か」
「違う、大変な怪我なんです! はやく来て!」
「怪我?」
 医師は眉を寄せた。王宮の中にいて王子が怪我をするなどそうそうあるものではない。とりあえず風眞の様子が尋常でないのを見て、医師は必要な道具をそろえて叶の部屋へと向かった。

「眉尻を三針縫いました。全身の打撲、それにもしかするとあばらが折れているかもしれません」
 一通りの手当てを行った後、医師は淡々と容態を棗に説明した。
「一体、王宮の中でどのようにしたら、このような重体になるのでしょうな」
 ため息混じりに医師が言う。油皿の火が揺れた。
「もうしわけありません」
 棗はただ謝るだけだった。
「この間の薬のことといい、この小さな王子に関わるとろくなことがなさそうだな」
「・・・・・・」
 風眞は下を向いた。痛々しい姿で叶が横たわっている。目の周りや唇の辺りが青く腫れ上がっていた。ただでさえよくない噂が広まっているというのに、こんな姿では外に出ることすらかなわない。殴るなら叶ではなく自分にしてくれればよかったのに、と風眞は思った。
 横で棗がうなずきながら医師の話を聞いている。途中何度か相槌のかわりに「もうしわけありません」と言っていた。
 たたりでも何でも、喬の霊が叶のそばにいるのなら、きっとこんなことになるはずがない、と風眞はぼんやり考えていた。突然冬葵が殴りこんできたのも、きっと殯を切り上げて無理やり埋葬してしまったせいで喬の霊が叶を守ることができなくなってしまったのだろう。
――そういえば、また来ると言っていた。
 風眞は身震いした。どうしたら、叶を救えるだろう。横に座って医師の話を聞いている母親を見上げてみる。棗でもきっとどうにもできないに違いない。最近は皋に呼び出されて叶のそばにいることすらもかなわないのに。
 風眞は医師に視線を移した。若いが頭の切れそうな医師である。この医師が前に調合した薬を飲むようになってから、叶は前よりも少しだけ顔色がよくなってきている。風眞はこの男を信頼していた。この男がいれば絶対に叶はずっと生きていられるのではないかと思っていた。
「私は黄菅と申す。今は王子や姫に仕える身分だが、いずれは国王に仕える侍医になりたいと思っている」
 医師のそう言った声が聞こえた。
 この医師ならきっとできるだろう、と風眞は思った。そこへ、医師は意外な言葉を発した。
「――二度と私を呼ばないでくれないか。余計なことに巻き込まれるのは御免だ」
「そんな・・・・・・」
 思わず風眞は声を漏らした。
「王位継承者の立太子に向けてただでさえ王宮の中は嵐のようだというのに、このような問題ばかり抱えている王子と関わっていては、私の立場があやうくなる」
「・・・・・・それでは、叶様を診ていただくことはできないということでしょうか」
 棗が静かに尋ねる。
「もちろん、別の医師を呼んでくれるのは構わないが」
 医師は立ち上がった。そのまま戸の方へと歩き出す。音を立てて戸を開けると、まだ肌寒い風が吹き込んできた。
「王子は、しばらく安静にしてさしあげろ。――それでは。」
振り返りもせず医師はその声を残して、部屋を出て行った。静かに、戸が閉まった。
 
 その晩、風眞は一人で考えていた。
――もう二度とこんなことが起こらないようにしないと。
 そうしないと、すぐにでも叶が死んでしまうように思えた。
 今日冬葵が来た理由は未だによくわからない。ただ、藍氏がどうという話をしていたので、おそらく王位継承争いと関連しているのだろう。
 そういえば、と風眞は気づいた。喬と若彌の埋葬の儀の頃からぱったりと蔚木が叶のもとを訪ねてこない。埋葬の儀のときに参加している姿は見かけたが、それ以来全くといっていいほど会っていない。あれほどまでに叶に王になってほしいと嘆願していたのに、裏切ったのだろうか。それとも、諦めたのだろうか。
 きっと今日の話を蔚木に相談できれば、よい解決方法を教えてくれただろう。風眞はとても悲しくなった。
――やっぱり、叶様のもとから、みんないなくなってしまうんだ。
 常葉に始まり、喬、喬の妹の紫苑と素馨、それに自己を失っていた皇后・・・・・・。実の父親の国王ですら、常葉の葬式以来ほとんど会っていない。いつもそばにいるのは風眞と棗。その棗すら最近は皋に呼び出されてほとんどいることがない。蔚木はきっと、叶を支えてくれる人だと思っていたのに・・・・・・。
――ぼくがちゃんとしなくちゃ。
 風眞は擦り切れた襟元を両手でしっかりとかきあわせて寝返りをうった。ひんやりとした空気が毛布の間から入り込んでこないよう、顔の半分まで毛布をかぶせるようにして目をつぶる。横を向いた頬から流れ落ちたものが、枕を濡らした。

 叶の薬をもらいに王宮を庭づたいに歩いていた風眞は、八部咲きくらいの桜の木の下で女房や女官たちが集まって花見をしているところに出くわした。中心らしい女性がおそらく国王の后の一人だろう。儀式などでもあまり見かけない女性であることから、おそらく后としての身分もそれほど高くないはずだ。
 女たちは茣蓙を大きく広げ、その上で重箱を広げている。何か食べ物でもつまみながら噂話をしているのだろう。ときどきくすくすと笑い声が聞こえた。
 その横を通り過ぎようとしたとき、一人の女房が話をはじめた。
「ねえ、お聞きになられまして? 若彌王子がたたられた理由を」
 ええ、と声が上がる。思わず耳をそばだて、風眞は歩調を緩めた。
「珮氏の一族が冬葵王子を擁立したくて、喬王子を殺したかららしいって聞いたわ」
「まあ」
「あら」
 口々に声が上がる。
「では、喬王子を殺害したのは、やはり珮氏のものだったのね」
「そうでしょう。珮氏のやり口は昔から汚いと有名ですもの」
「私もそう思ってましたわ」
「私も」
「私もですわ」
 周りの女官たちからも声があがるところを見ると、どうやらこの女たちは藍氏側に属する者たちのようだった。
「では、これで冬葵王子が国王になることはなくなったのですね」
「これでめでたく吟王子が国王になられ、天下は藍氏一族のものとなるでしょう」
 女たちはくすくすと笑った。
 そういうことか、と風眞は知らぬ顔で横を通り過ぎながら思った。真実喬を殺害したのは、藍氏側が擁立しようとしている王子の吟である。このことが公になれば吟は王位継承権を失う。しかし、事実を証明するような証拠はひとつも見つかっていない。
 証拠がなくとも喬殺害の疑惑は藍氏と珮氏にかけられている。ならば相手を先に犯人に仕立て上げたほうの勝ちだ。「若彌王子がたたられた」という形で藍氏がこの戦いの先手を打ったのである。
――この間冬葵王子が血相を変えて殴りこんできたのは、そのせいなのか。
 珮氏と藍氏の権力はいまや拮抗していた。喬がなくなってから早くも五ヶ月以上が経とうとしている。それなのに一体誰がその殺害を目論んだのか、未だに主犯がわからない。犯人の有力候補が王位継承者としての王子をそれぞれ擁立している珮氏と藍氏のため、喬殺害の結論はそのまま王位継承者決定へと結びつく。だからこそ国王も喬殺害の犯人をうやむやにはできない。
有力な証拠はほとんどない今、喬殺害の犯人を目撃したものがいるとすれば、それは叶と風眞以外に存在しない。「珮氏が喬王子殺害を行った」という噂が広まっているのなら、叶が誰かに証言したのではないか、と考えても不思議ではないだろう。あるいはああやって脅すことにより、有力な証拠としての叶を利用しようとしたのかもしれない、と風眞は考えた。
 しかし、事実を知っている叶は目撃した内容を証言することができない。
この国の古来からの習慣として、公式の場において書面による発言、意見は認められなかった。国王に対して重要な証言や誓いをたてる場合、必ず真偽をはかるための神官がそばに立つ。口から発せられる言葉であれば、その言葉が真偽を証明するからだという。
ゆえに話すことのできない叶は今まで証言者として採用されることがなかった。そして叶に声が戻るまでそれは変わらないはずだ。
――それでも他に証拠となるものがないのなら、どんな手段を講じてでも叶様を利用するかもしれない。
 おそらくそれはこの間のときだけでなく、珮氏の一族、そして藍氏の一族のものたちも叶を利用しようとする可能性がある。
――もしもいつまでたっても叶様の声が戻らなかったら。
 ぶる、と風眞は身震いした。薬の包みを抱えて小走りに駆け出す。
――もしも何度もあんな風に冬葵王子がやってきたら。
 急いで部屋に戻り、戸を開ける。
 蔚木から借り受けた本が床に散乱していた。人の気配がない。
 狭い部屋の中をぐるりと見回して、風眞は声をあげた。
「叶様!」


 一日中あちこち王宮の中を駆け回った風眞は、くたくたになりながら一度部屋へ戻る決心をした。まがりなりにも王子の一人が行方不明となれば、お付きの者の責任は重大である。そうでなくとも、少し前に冬葵のあの事件があったこともあり、風眞は気が気でなかった。
 夕暮れの陽がさす廊下を部屋へととぼとぼと歩いていると、向かいから大きな男が叶を連れて歩いてくるのが見えた。押されては引きずられるように歩いている叶の姿がおかしい。大きな男と見えたのはあの喬を殺害した吟王子だった。あわてて風眞が駆け寄る。
「叶様」
「・・・・・・」
 叶と吟はその場で立ち止まった。
 恐る恐る風眞は頭二つ分ほど違う吟を見上げた。成人男性の中でも吟は随分背の高い部類に入る。風眞も年の割にはよく背が伸びている方だったが、吟の顔を見るには顔を大きく上に曲げなければならなかった。
「あ、あのう、叶様は今までどちらへ・・・・・・」
「俺のところへ来てたいたんだ。仲のよかった喬の奴が死んじまって叶は寂しいんだよな。今度は俺が優しい兄貴として面倒を見てやることにしたんだ」
「・・・・・・はあ」
 叶の顔を見ても表情が変わらないのでわからない。どちらにしろ、風眞には心底本気で吟が叶の面倒を見るとも思えなかった。
 とりあえず部屋へ連れ戻すために叶の手を引くと、びくりと体が硬直した。不自然な動作で叶が足を踏み出す。その様子に首をかしげながら叶を部屋に案内すると、吟はその場で手を振った。
「また遊びにこいよ」
 その声に振り返りもせず、ぎこちない動きで叶は部屋へと入っていく。
 後ろで戸をしめると、どすん、という音とともに叶が座り込んだ。
「叶様?」
 驚いて風眞が叶の前へまわりこむと、叶は顔をゆがめて腹部を手で覆った。額にうっすらと脂汗がにじんでいる。前に医師が「あばらが折れている可能性がある」と言ったのを思い出し、風眞はしゃがんでいる叶を何とか引っ張り、寝台へと運ぶ。とりあえず横にさせると、風眞はまず何があったのか尋ねた。もちろん、答える叶は声に出して話すわけではないが。
――兄さま殺しの話については、ずっとだまっていろと言われた。
「それで、この間の冬葵王子のときのように、ひどいことをされたのですか」
 叶は首を縦に振った。
 前回のように顔を中心に殴られていたのなら見た目ですぐにわかる。だが吟は外の人間にばれないように顔は外したらしい。
――ぼくが黙っていれば、あいつが国王になれるそうだ。
 叶の唇が動く。
 風眞は外の女たちの会話を思い出した。吟を擁立しようとしている藍氏は神官の「たたり」という言葉を利用し冬葵と珮氏をけり落とそうとしている。このまま上手くいきそうなら、叶は黙らせていたほうがいい。
――あいつが国王になろうと、冬葵が国王になろうと、どっちでもいいんだけど。
「そうですね」
――蔚木は、こないね。
「・・・・・・はい」
 唇を動かすだけの叶を見て、一体叶の声はどんな声だっただろうと風眞は思い出そうとした。もう長いこと聞いていないような気がする。いつになったら叶の声は戻るのだろう。風眞はひどく叶の声が懐かしいと思えた。
 その日傷の手当てをさせるために医師を呼びに行った風眞は、寮にいつもいるあの若い医師の姿がないことに気がついた。その場にいた医師に尋ねると、つい先日彼が亡くなったことを教えてくれた。町を歩いているときに盗賊に襲われたのだという。そのことについて特に風眞は叶に報告しないことにした。
――叶様に関わる人がみんな死んでいく。
 自分が抱いてしまったそんな感想を、叶に気づいてほしくはなかった。

 それから二ヶ月。若葉が生い茂り、王宮は真夏といってもいい陽気となった。喬のいたあの夏からすでに一年が経過したことになる。
相変わらず蔚木は顔を見せない。その間、一度冬葵が叶の元を訪れて脅迫したが、以前ほどひどく暴力を振るうことはなかった。
 汗を拭いて水汲みから帰ってきた風眞の元へ、一人の女官が白い喪服に身をつつみ、報せを持ってやってきていた。いつぞやの喬と若彌の埋葬の儀式の通達を思い出す光景である。
「皇后が、お亡くなりになられました」
 報せには葬儀の詳細な予定が書き込まれている。夏日が続いているせいか、殯のために用意された期間が少ない。たたりの霊になったとされる喬の母だからだろうか。あるいは、皇后の希望している埋葬地が喬の埋葬された陵墓であるため、陵墓の建設期間が必要ないためかもしれない。
 皇后の死について、叶は驚くこともなく淡々と聞き流していた。風眞も報せを読みながら、なんて葬儀の多い年だろうと思った。新年早々から第一王子が亡くなり、第三王子、それに皇后まで亡くなるとは。神官の言った「たたり」という言葉もあながち嘘と思えなくなってくる。
 皇后の葬儀ではいつのまにか冬葵の母の菖蒲が皇后の席に着き、あたかも皇后のように振舞っていた。実質今までも皇后の代わりを務めていたとはいえ、葬儀の席で皇后の席に着いたことは、反対勢力の藍氏側の者たちから陰口を叩かれていた。
 その日、妙に緊張した空気が漂う中で、特に目についたのが吟の母の楓と菖蒲の対立だった。故人に対する悼みの言葉を相手が述べている最中、どちらも相手の姿を笑ったり、陰口をたたく。陰湿な嫌がらせはそれにとどまらず、儀式の最中ありとあらゆる形で繰り広げられた。
 国王の傍には皇后の兄で大臣の磨波羅が控えていた。菖蒲や楓の父たちなど熟練の政治家が並ぶような大臣の位に、まだ齢四十になったばかりの磨波羅がつくことができたのは無論国王の取立てがあったからこそである。もともと珮氏から政治を切り離そうとしていた国王は、遠縁にあたる皇后や磨波羅の一族――本氏を用いるようになった。そして皇后が世継ぎとなる喬を産んだことで磨波羅は位を昇り、十歳以上も離れた熟練の大臣たちと同じ立場になることができたのだった。
 しかし今や喬は亡く、ついで皇后もいない。議会ではもはや以前の発言力は無く、後ろ盾としてついていた官吏や貴族たちもすっかり珮氏、藍氏のどちらかの側に付くようになった。
 国王は共に天下をとるその日を迎えようと言った。そのために必要だったのは珮氏、藍氏をはじめとする貴族と政治の癒着の排除。そしてそれを実行するのに不可欠だったのが喬の国王即位だった。
計画はひとつずつ崩れてきている。しかし、国王は諦める気など毛頭ないようだった。喬が亡くなった時に大臣職を辞めると言った磨波羅に、国王はひとつの命令を下した。それは議会での役目ではなく、国王の目的のために行わなければならないこと。しかし。
――到底こんなことがうまくいくとは思えない。
 磨波羅は謀略に長けた珮氏や藍氏のやり口を思い描く。後宮内部の事情は知る由もなかったが、妹の死にも彼らの謀略が噛んでいるのではないかと磨波羅は感じていた。
 謀略の数々を用いて王家や政治と癒着し、長い間貴族の頂点に立ってきた珮氏。そしてそれには及ばないが、珮氏の謀略により次々と政治の舞台から消えていく貴族たちの中で、珮氏に次ぐ一族として長いこと権力を維持してきた藍氏。
たとえ国王の命令と言えど、この二つの勢力を敵に回して無事でいられるわけがない。磨波羅には、妹の死と同じように、いつか自分にもそんなことが起こりえるように思えてならなかった。


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